東京高等裁判所 昭和58年(ネ)629号 判決
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【判旨】
一<証拠>によれば、次の事実が認められ<る。>
1 控訴人と被控訴人は、昭和二九年五月二九日婚姻し、昭和三〇年七月九日に長女春子、昭和三四年一一月三〇日に二女夏子がそれぞれ生れた。
2 被控訴人は、婚姻当初は他店の経理とともに、控訴人の父山本一郎の経営する山本産業株式会社の経理を担当していたが、昭和三三年ころ○○郵船株式会社に経理部次長として勤務するようになり、その後昭和四〇年二月ころ設立した○○○○工業株式会社の副社長に就任したが、同社は昭和四一年一二月に倒産したため、○○郵船に復職し、ついで○○興業株式会社、○○開発株式会社等を転々とした後、昭和五一年四月室内装飾等を業とする株式会社○○○○を設立したものの、これも昭和五四年一一月八日ころ、不渡手形を出して事実上倒産してしまつた。その後、被控訴人は、○○建設株式会社等に関係するなどし、現在は建築、機械設備関係の会社の準社員として働き、月平均六〇万円くらいの収入を得ているが、右倒産のために一四〇〇万円余りの負債を抱えてその返済に追われていることもあつて、昭和五三年六月ころ以降は控訴人に生活費等を渡していない。
3 控訴人は、婚姻当初から生花の教授をして収入を得、家計の足しにしてきたが、前記のように被控訴人が生活費等を一切入れなくなつてからは、専らその収入によつて家計を支えてきた。
4 控訴人は、何事にもけじめをつけ、平凡ながら真面目に折目正しい生活をすることを望み、金銭面でもかなり几帳面であるうえ、自分の考えを実行しようとする強い性格であつて、被控訴人の仕事や収入が前記のように安定していなかつたため、他をあてにすることなく多年生花の教授を続けて家計を支えてきたのに対し、被控訴人は、種々の会社を転々とし、会社を設立するなどはしていたが、その業績ははかばかしくなく、そのため、安易に借財に走り、多額の負債を抱え込むと、再三、控訴人やその父の山本一郎に頼つて苦境を乗り切ろうとするなどしたため、控訴人の被控訴人に対する信頼は薄れ、次第に双方とも理解し合おうとする思いやりを忘れて、感情的なそごないし不信感をつのらせていつた。
特に、控訴人の父山本一郎が、前記○○○○工業株式会社の倒産の際に、同社の銀行に対する債務四二〇万円くらいを、物上保証人としてその所有地を売却して弁済し、そのうち一二五万円程度の金員が回収不能となつているにもかかわらず、被控訴人は、右土地売却の際に自己の才覚によつて、右金額を優に超える八百数十万円の納税を免れることができたからその償いはできているとして、かえつて控訴人らに恩着せがましい態度をとつたため、控訴人はこれを許し難いものと考え、これが、被控訴人との間のしこりとなり、本件離婚を決意するに至つた一因ともなつている。
5 また、控訴人は、昭和四三年ころから潰瘍性大腸炎を発症し、昭和四六年ころには下痢と出血が激しくなり、身体のむくみや貧血症状が続き、神経性不眠症を併発している旨の診断を受け、その原因は家庭内の夫との心的葛藤にある旨医師から指摘された。そして、控訴人は、昭和四九年七月から同年一二月まで○○大学付属病院精神科に通院して治療を受けることになり、娘二人を抱え心身ともに衰弱して苦しい日々を続けていたが、被控訴人は、控訴人を同病院まで送り迎えするなどしていたものの、主治医に面会して控訴人の病状を問い合わせることなどもせず、格別思いやりのある温い態度を示すようなこともなく、かえつて、ときには「気違い」などと罵るようなことさえあつた。
6 ついに、控訴人は、昭和五四年一一月八日ころ、前記株式会社○○○○の倒産に関連して、数百万円の融資を受けるについて被控訴人から保証人になることを求められたりしたことから口論となり、前記のような従来からの経緯もあつて、これを機会に被控訴人とは別の生活をすることを決意し、被控訴人にその旨を告げて、同日から今日まで肩書住所地の同一家屋内で起居しているものの、食事等日常生活の一切を別にし、必要にせまられてメモ書きを手渡すことがあるのみで、夫婦としての対話や交渉もなく、事実上別居同様の生活を続けている。
7 控訴人は、本訴において、被控訴人の生活態度や性格、人柄等を厳しく非難し、前記の控訴人の病気は、夫である被控訴人の言動等に起因するものであるとして、被控訴人と離婚することを強く求めているのに対し、被控訴人は、離婚の条件として高額の金員を要求する一方で、控訴人と和合して円満な婚姻生活を回復することが十分可能であると主張して、離婚に応ずることを拒絶している。
しかし、被控訴人は、積極的に控訴人との和合を図つたことも、これから図つていこうとする意欲もなく、現状の生活に不便はあるものの、特に痛痒を感じているわけではないため、単に時が解決してくれるのを待つという非常に消極的な態度に終始しているにすぎない。
8 長女春子は昭和五四年六月一七日に婚姻して別居し、大学を卒業した二女夏子が控訴人、被控訴人との同居生活を続けているが、いずれも、これまでの両親の生活をつぶさに見てきた結果から、その離婚に積極的に賛成しており、被控訴人に対し男らしく控訴人と別れて出ていくことを強く求めたことさえあつた。
二右認定事実からすると、控訴人と被控訴人との婚姻関係は既に破綻しており、その回復は到底期待し難いものというのが相当であり、そのような破綻を招いた原因としては、やや神経質で自己主張が強く、夫との円満な生活を維持しようとする寛容さに欠ける控訴人に一半の責なしとはしないが、その過半は、確たる見通しもなく転々と職をかえ、安易に借財に走り、そのあげく、控訴人らに借財返済の援助を求めるなど、著しくけじめを欠く生活態度に終始し、控訴人の健康状態、特に、難病といわれる潰瘍性大腸炎のため心身に痛く打撃を受けていた控訴人に対するおもいやりを全く欠いた被控訴人の責に帰すべきものといわざるをえないから、被控訴人との離婚を求める控訴人の請求は、正当として認容すべきである。
三よつて、右と異なる原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、控訴人と被控訴人とを離婚し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(杉山克彦 鹿山春男 赤塚信雄)